岡山大学病院 低侵襲治療センター

呼吸器チーム

はじめに

近年の内視鏡手術の進歩やその他手術手技の向上により岡山大学病院では、肺がんや縦隔疾患(胸腺など)に対して、患者様にやさしい「低侵襲手術」を行っています。低侵襲手術として、①傷を小さくすること「胸腔鏡補助下手術」と、②治療効果を担保しつつ切除量を小さくすること「肺温存術」「リンパ節縮小郭清」、の大きく二つがあります。科学的根拠に基づき、十分な治療を行いつつ、患者様への負担の低減を目的として、これらの低侵襲手術を積極的に取り入れています。

 

 

① 傷の縮小(胸腔鏡補助下手術, VATS)

胸腔鏡と呼ばれる内視鏡(カメラ)を用いた手術方法(VATS; Video Assisted Thoracic Surgery)により、従来よりも小さい傷で、従来と同様の手術成績を得ることが可能になっています。胸腔鏡補助下手術(VATS)には、体に小さく開けた創から病変を直接観察しながら手術を行う手術(Hybrid VATS)と、終始カメラで映したモニター画面を見ながら手術を行う完全鏡視下手術(Complete VATS)があります。後者の方が小さな傷で手術を行うことが可能であるため、術後の痛み軽減や美容面でメリットがあると言えますが、より特殊な技術が必要とされます。岡山大学病院では胸腔鏡下手術を1990年代から行っており、肺がんにおいては、ほぼ全例に胸腔鏡を用いて手術を行っており、昨年までは8cm程度の皮膚切開で行われたHybrid VATSは半数以上の症例に行われています。今年からは低侵襲治療センターの発足に伴い、より傷の小さい完全鏡視下手術(Complete VATS)を第一選択として積極的に行っております。


<図1>原発性肺癌における胸腔鏡手術割合の年次別推移

また縦隔疾患に対してもここ数年で胸腔鏡手術の割合が増加しております。従来は、前胸部の中心にある胸骨という骨を一旦切離して、手術を行った後に胸骨を縫い合わせる胸骨正中切開手術が行われていました。しかしながら画像診断技術の進歩などにより、小さい縦隔腫瘍の発見機会が増加しているため、このような症例に対しても胸骨を切って切除することは侵襲が大きくなることが懸念されます。また、胸骨切離後に非常に稀ではありますが感染などの重篤な合併症が生じることが考えられるため、胸骨切離を避ける胸腔鏡手術が取り組まれてまいりました。最近では、大きい縦隔腫瘍や周囲臓器に浸潤を認める一部の症例では胸骨正中切開が選択されますが、手術手技の改善により前縦隔に広く存在する胸腺を広範囲に切除する拡大胸腺摘除術も胸腔鏡を用いて行うようになっております。


<図2>縦隔疾患における胸腔鏡手術の年次別推移

さらに標準開胸手術の場合でも、拡大手術を除いたほとんどの症例で、皮膚切開の大きさを10-15cm程度で行うことが標準となっております。


<図3>肺がんに対する開胸創の変遷


<図4>肺がんに対する胸腔鏡手術成績

(参考)ロボット支援手術

当院では、2010年に手術支援ロボットのひとつである‘ダヴィンチ・サージカルシステム’を導入しました。ロボット支援手術システムは、低侵襲手術を目的として開発されたもので、世界的には広く使用されつつありますが、日本ではまだ数か所の限られた施設のみで導入されているに過ぎません。呼吸器外科領域においては、世界的には縦隔腫瘍や肺がんの手術に使用されており、当院でも倫理委員会に承認されており、実際に手術を行う準備を現在進めています。


<図5>ダヴィンチ・サージカルシステム

② 切除量の縮小(「肺温存術」と「リンパ節縮小郭清」)

ヒトの肺は、右側3葉(上・中・下葉)および左側2葉(上葉・下葉)の5つの葉に分けられます。それぞれの葉はさらに、より小さな区域に分けられます。このうち、手術によって各葉を切除するのが葉切除(例:右上葉切除など)、各区域を切除するのが区域切除(例:右上区域切除)、さらに、これらの区分けとは無関係に腫瘍を含めた肺を部分的に切除するのが部分切除です。手術で切除可能な肺がんに対する標準的外科治療としては、一般的に肺葉切除以上の術式が勧められています。また、もともとの肺機能が十分でない患者さんは、肺機能をなるべく多く残すために、肺切除量を縮小した手術が勧められています。また、近年の画像診断技術や検診技術の向上により、非常に早期の肺がんがよく発見されるようになっています。これら早期の肺がんに対して、標準術式を行うと、各肺葉(肺全体の約5分の1)を切除しなければなりません。これら早期(I期)の肺がんの患者様の中には、ある条件を満たせば、肺葉切除以下の切除(区域切除や部分切除)でも十分に根治できる可能性が報告されつつあります。したがって、当院では患者様の病気の進み具合(病期)や全身状態を慎重に検討しながら、肺切除量の縮小を行い、術後の肺機能温存に努めています。

口から吸いこまれた空気は、「気管」を通り、左右に枝分かれした「主気管支」を通って、前述の「肺葉気管支

→「区域気管支」へと細かく枝分かれして「肺胞」に辿りつき、ガス交換されます。これは、土から吸収された養分が「木の幹(気管)」を通って、「枝(気管支)」に分かれ、「葉(肺胞)」に辿りつくのとよく似ています。大事な木の幹(「気管」)や枝(「気管支」)の部分が病気になった場合、養分の流れ道が侵されているため、それより先の部位(「肺葉気管支」「区域気管支」「肺胞」)が正常でも、木を切り倒したり、大きく枝を落とすことが必要となることがあります。つまり、「気管」や「気管支」といった重要な通り道にがんなどの腫瘍で侵された場合、切除すべき肺の量が大きくなり、術後に多大な機能低下(呼吸不全)になる可能性があります。岡山大学病院では、従来であれば片側の肺をすべて切除しなくては治らなかったような肺門部腫瘍の症例に対して、病変が限局している場合では病変部のみを切除して、残りの正常部分を温存する「肺温存手術」を積極的に行っています。病気によっては、手術前に化学放射線療法を組み合わせることで病気のコントロールを向上させています。これらの努力により、術後呼吸機能の低下を予防して、患者様の術後QOLの維持に努めています。


<図6>非浸潤型早期肺腺癌に対する肺温存術(部分切除)

肺がんの手術においては、正確な病気の進み具合(病期)を診断する観点から、肺切除と同時に系統的なリンパ節の切除(系統的リンパ節郭清)を行うことが勧められています。具体的には、1群および2群(縦隔)と呼ばれるリンパ節を系統的に切除します。しかし近年の研究において、肺がんの発生部位と転移しやすいリンパ節の場所との関係が徐々に明らかになりつつあります。特に、肺の末梢に存在する小型の早期肺がんにおいては、転移頻度の極めて低いリンパ節の切除を省略する試みがなされています(例えば、上葉にできた肺がんに対しては下縦隔と呼ばれる部位のリンパ節郭清を省略する、など)。より低侵襲の治療を行い、患者様への負担を低減する目的から、当院においてもこれらのリンパ節切除範囲の縮小に向けた試みを行っています。

今後も根治性を保ちながら、術後早期社会復帰を目指して、低侵襲な呼吸器外科診療を積極的にすすめることを目指します。

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